日本古代巻子本書誌データベースについて

青山学院大学文学部日本文学科教授
小 松(小川)靖 彦 製作

 日本の書物の歴史は5世紀にはじまり、8世紀に一つのピークを迎える。この時期に制作されたのは、専ら巻子本(かんすぼん)であった。日本に冊子本が紹介されるのは、9世紀初頭以降である。3,500巻以上現存する奈良時代(8世紀)の巻子本(主に仏教経典)は、日本古代の書物制作の技術の高さを如実に示している。
 しかし、これらの巻子本のうち、表紙・巻紐・軸全てが残存し、制作当初の姿を残すものはほとんど存在していない。特に、制作当初の巻紐は断片しか現存しない。
 これに対して、「正倉院文書」などには、巻子本の出納・書写・管理に際して記録された、装丁に関する豊富な情報が見出せる。料紙・表紙・巻紐・軸はそれぞれに多彩で、その組み合わせ方にも高い装飾性が見られる。これらのほとんどは逸失したが、現存する巻子本からは知ることのできない、日本古代の書物文化の豊かさを生き生きと伝えてくれる。
 古代文書における巻子本の書誌情報は、文書によって記録の仕方がまちまちであり、そのままでは利用しにくい。当データベースは、記録に残った日本古代の書物文化を明らかにすることをめざし、それらの書誌情報を、1.料紙・2.表紙・3.巻紐・4.軸の順序で整理して、検索できるようにした。
 データベースの作成にあたっては、「正倉院文書」などを翻刻して収録した『大日本古文書』(編年文書之一~二十五、覆刻版、東京大学史料編纂所編、東京大学出版会、1982~1983年)を用い、さらに『寧楽遺文』(中巻、東京堂出版、1997年〈訂正8版〉)で寺院史料に見える巻子本の記録を補った。
 また、文書・寺院史料では、仏典は略称で記されることが多い。それらの認定を、

の3点の先行研究を参考にしながら、当データベース製作者の判断も加えて行った。加えて、所蔵者についても、データ化した。
 当データベースが、書物史、書誌学、日本文学、歴史、美術史、仏教史などの研究に資するところがあれば幸いである。
 なお、当データベースの校正について、加藤詩乃氏の助力を得た。また、当初作成したエクセル版から公開版への加工について、TriAx社の協力を得た。
 当データベースの作成は、平成15~17年度科学研究費補助金による研究(基盤研究C)「『萬葉集』の原本の復元を目的とする、古代巻子本の標準的形式に関する書誌学的研究」(課題番号1520120)の研究成果に基づく。

(2016年2月製作、12月公開)